山手線の時刻表
  
 ここでいう山手線とは、東京のど真ん中に位置し、JR東日本旅客鉄道株式会社が管轄する鉄道である。

 この山手線は極めてビジーな路線で毎日多くの人が利用をしている。1日あたり、いったいどのくらいの利用客があるのか、想像もできないが、JR東日本のドル箱であることは想像に難くない。したがって、一日中、ひっきりなしに電車が走り回っている。夜の12時台ですら、4〜5分おきに電車がくる。ラッシュ時には、それこそ、1本の電車が発車したと思ったらまた次の電車がホームに滑り込んでくる。だから、私などは、いっそのこと、山手線1周、電車でつないだらよいのになどと考えてしまう。
 だから、ふつうの場合、始発電車や終電車は別にして、時刻表を調べて山の手線に乗ろうとする人は、ほとんどいないと思われる。

 しかしながら、地方に住んでいて、東京に行ったことのない者には、このことが想像できない。わたしは、H市に住んでいて、いつも名鉄の竹鼻線を利用しているが、この路線では、朝夕の通勤通学の時間帯でも、1時間に4本しか電車がこない。しかも、ターミナル駅である新岐阜駅まで直通で行ける電車は1時間に2本しかない。あとの2本は途中の笠松駅で名鉄本線に乗り換えなければならないのである。これでも、まだ便利になった方である。10年前は1時間に2〜3本しか電車がなかったからである。したがって、電車に乗るときは、必ず時刻表をチェックすることにしている。

 わたしが、以前、東海女子大学バドミントン部の監督をしていたとき、選手がジャパンオープンの出場権を得た。そこで、原宿駅から徒歩約10分の所にある代々木第2体育館でおこなわれる試合に出場するために、新宿駅から徒歩5分の所にある京王プラザホテルに泊まった。このとき、選手には試合に専念させるためにマネージャーを1人同行させた。
 そこで、山手線の時刻表なのであるが、チェックインを済ませ、ロビーのソファーでくつろいでいたところ、このマネージャーが私の方へ歩み寄ってきた。手にはフロントで借りてきたという分厚い時刻表を持ってである。そこで、わたしに、明日のスケジュールを相談したいと言ってきた。そして、何時の電車にしましょうかと聞いてきた。もちろん、わたしは、真剣に彼女の話に耳を傾けて、試合開始時間をきいた。そして、どの経路で行こうかと尋ねた。彼女は、時刻表をめくって、新宿駅で山手線に乗って、3つ目の原宿で降りると会場に行けます、と答えた。そして、新宿発山手線内回り電車の時刻を調べ始めた。そして、そのページを見つけた。そしたら、彼女はおもむろに時刻表を閉じ、フロントに向かって歩き出した。もちろん時刻表を返すためにである。そして、戻ってきて言った。何で教えてくれなかったんですか、と。そこで、私は言った。明日はバスで会場に行こう、と。彼女は怪訝な顔をした。そりゃそうでしょう、ジャパンオープンくらいの大会になると、選手を山手線なんかで試合会場には行かせませんよ。シャトルバス、シャトルバスがホテルから代々木第2体育館の選手用出入り口まで乗りつけるのです。
 でもこのマネージャーはバスに乗って喜んでいた。世界チャンピオンをはじめとする一流選手と一緒にバスに乗ることができたからである。とてもはしゃいでいました。でも、気持ちは分かります。しかし、バスの中でサインをねだり始めやしないかと冷や冷やしました。

 ともあれ、このマネージャーは、その後、色々な経験を積んで一流のマネージャーに成長しました。そして、東海女子大学バドミントン部のために尽くしてくれました。めでたしめでたし。

トップページへ