1898年のバドミントンのルール

 今日は,昔のバドミントンのルールについて少し疑問に思ったことがあったので,昔のルールブックを紐解いてみた。そこで,ついでといっては何であるが,ちょいと話のネタに情報を提供いたします。

 バドミントンのオフィシャルルールが制定されたのは,1893年,英国はハンプシャー州のサウスシーという所であった。このいきさつについては,このサイトの中にあるバドミントンあれこれの「バドミントンの初期の歴史」のページに詳しいことが書かれているのでご参照頂きたい。

 残念ながら,この1893年に決められたルールの内容について,私は全く知らない。また,誰かがこのルールブックあるいはそのコピーを持っているという話やうわさも聞いたことがない。したがってその内容は藪の中である。
 私が持っているもっとも古いルールブックのコピーは1898年のものである。FOURTH EDITIONとなっているので第4版ということである。実物は下の図1に示されているものである。
 
  ちなみにこのルールブックのタイトルは,The OFFICIAL EDITION of the LAWS of BADMINTON and the RULES of the BADMINTON ASSOCIATIONとなっており,LAWSとRULESが含まれている。私たちが一般的にルールと呼んでいるものがLAWSで,RULESとは協会の規約のことである。したがって,RULESの方には,第1条に,この協会はThe BADMINTON ASSOCIATIONと称するとか,第2条にはこの協会の目的は・・・・・・といったようなことが書かれている。

図1
The OFFICIAL EDITION
of the
LAWS of BADMINTON
and the
RULES
of the
BADMINTON ASSOCIATION

 このルールは5条18項の条項と付録で構成されているが,おもしろいのはコートの形状である。下の図2と3に示したが,アワーグラス型コートである。アワーグラスとは砂時計のことでまさに砂時計のかたちをしている。 支柱の形状もおもしろいネットの上,6フィートの高さまで鉄製の棒が伸びている。この外側を通ったらフォルトである。きっと審判は苦労したことだろうな。6フィートより上をとんだシャトルの判定は難しかっただろうな。でも,このコート1901年4月に開催されたバドミントン協会の定期総会で廃止が決まり,今と同じ形になった。わたしも何回かこのコートを作ってやってみたことがあるが,やはりポストの上をシャトルが飛んでいくとその判定は極めて難しい。

 また,付録の所にであるが,3対3と4対4のゲームについても解説している。この3対3と4対4のゲーム,なぜかわからないが,1901年に改正されたルールでは,付録ではなくて,ちゃんとした条項として取り上げて規定している。第6条を新たに起こし,その中の19〜21項で説明しているのである。たぶん根強い人気があったのだろう。この改訂されたルールブックでは,3対3のゲームはシックスハンデッドゲーム,4対4はエイトハンデッドゲームと呼んでいる。このシックスハンデッドゲームとエイトハンデッドゲームをはじめとして,多人数で行うゲームは,1880年代にはもっともポピュラーなゲームのやり方であったようだ。老若男女が一緒に行えるというところに最大の魅力があったのであろう。レクレーションとして行うのにはもっとも適していたのだ。これについては今でもそうであるが。だから,バドミントンをレクレーションとしてやる場合,バレーボールのコートなんかを利用して,ネットも若干高いところに張ったりして,6対6でやるのもおもしろいんじゃないだろうか。私はやったことがありますが,盛り上がりましたよ。ただし,このシックスハンデッドゲームとエイトハンデッドゲームに関する条項は1906年のルール改正で完全に削除されてしまった。まあ,バドミントンが進化していく過程で,その役割を終えたということであろう。

 第1回〜第3回の全英選手権は,この1898年のルールの元に行われている。ただし,第1回大会では男女のダブルスとミックスダブルスしか行われていないが。男女のシングルスが採用されたのは第2回大会からである。しかし,なぜ,このシックスハンデッドゲームとエイトハンデッドゲームは全英選手権で採用されなかったのであろうか。と考えたとき,授業での風景が思い浮かんだ。わたしは,バドミントン実習にこれを取り入れ,学生諸君にやってもらっているのであるが,初心者がレクレーション的にやる分には楽しい。しかしながら,上級者がやると危険なスポーツになってしまう。つまり,後衛のプレーヤーが思わずネット前に甘い球をあげてしまったときなのであるが,特に,自軍の前衛が女性であった場合なのであるが,キャーという絶叫が体育館中にこだますることになる。It is very dangerous.
 このようなバドミントンのプレー風景を,19世紀の後半には,ヒットアンドスクリームと(Hit and Scream)呼んでいたのである。あるサイトを見ていたら,どのようなルールかは定かでないが,昔バドミントンにはヒットアンドスクリーム(打ったらキャー)という奇妙なルールがあったというようなことが書かれていたが,ヒットアンドスクリームとは,ルールではないのです。このような状況のことなのであります。バドミントンガゼットにも書いてありました。はいっ。

 さて,1898年のルールの全容につきまして,私が訳し,1992年の12月に日本体育学会の体育方法学分科会で発表をしたときに資料として配付したものがありますので末尾に添付しておきます。よろしかったら,昔のバドミントンの様子を想像してみて下さい。

 イヤー,今日は極めてまじめな,そして,重い内容になってしまった。
 来週と,再来週の土曜日は各務原市中央図書館と岐阜駅のアクティブGで講演をしなければならないのにこんなことをしていてよいものなのだろうか・・・・・・。今からがんばろう。(^_^;

図2

コートの形状
アワーグラス型コート
(砂時計型コート)
と呼ばれている。
図3

支柱の形状もおもしろい
ネットの上,6フィートの高さまで
鉄製の棒が伸びている。
この外側を通ったらフォルトである。


The laws of BADMINTON 1898

 

コート(THE COURTS)

 

1.コートは次の図Aの通りにレイアウトし,11/2インチ幅の白か黒のペンキかチョークで書かれた線で明確に示す。

2.ネットはなめらかな木綿の細紐を3/4インチ四方の網にしたものを長さ16フィート,幅2フィート6インチにし,中央部の高さ5フィート,ポスト部の高さ5フィート1インチに張る。

3.ポストは上述のとおりにネットをまっすぐに保つことができるしっかりとしたもので,少なくともネットのレベルよりも6フィート高く突き出したものとする。図Bの配置が推薦される。

4・シャトルは65〜75グレインの垂さで、直径1インヂのコルクに16〜18枚の羽根をつけ、羽根の長さは21/2とし、上端が21/4インチの広がりを持ち、コルクの1インチ上部に糸をかがる。

上述の用具はF.Hアイレス氏,111,アルダーゲートストリート,ロンドン.でのみ手に入れることができる。

 

ゲーム(THE GAME)

 

5・ゲームは各々のサイドが1人ずつあるいは2人ずつでプレーされる。

6.コートの選択 一最初のゲームにおけるサイドとファーストサービス権はトスによって決められる。それは次のように規定される。トスの勝者がファーストサービス権を選んだら,もう一方のプレーヤーはサイドを選択する。逆の場合も同じである。また、次のようにも規定されている。トスの勝者が望むならば最初の選択を相手プレーヤーに委ねてもよい。ただし,ゲームに勝ったサイドは次のゲームを開始する義務がある。そのときは勝者サイドのどちらのプレーヤーが次のゲームを開始してもよい。

7.ゲームは15得点から成る。13オールでは先に13に達したサイドがセティング5の選択権を持つ。14オールではセティング3である。

8. 3ゲームのうち2ゲームを先取した方が勝者である。3ゲーム目がプレーされる場合は,どちらかのスコアが8になったらサイドを交替する。

 

フォルト(FAULTS)

 

9.サイドが,”イン”のプレーヤーがフォルトをした場合はハンドアウトとなる。サイドが“アウト”のプレーヤーがフォル卜をした場合は,“イン”サイドに1点がカウントされる。

10.次の場合はフオルトである。

(a)サービスがオーバーハンドである場合。(打たれる瞬間のシャトルがサーバーのウエストよりも高い場合,そのサービスはこのルールが意味するオーバーハンドであると考える)

(b)サービスが間違ったコートに落ちた場合(すなわち、サーバーに対して対角線上の反対コートに落ちなかった場合),あるいはショートサービスラインに達しない場合、あるいはロングサービスラインを越えた場合,あるいはバウンダリーラインの外側に落ちた場合。

(c)サーバーの両足が自分のコート内にない場合。

  注)ライン上にある足はコートの外側にあるものとみなされる。

(d)サービスあるいはプレーのいずれかにおいて,シャトルコックがゲームの境界線の外側に落ちた場合、あるいは両ポストあるいは両ポスト上のパーティカルラインの間を通過しなかった場合、あるいはネットの間やネットの下を通過した場合,あるいは屋根や側面の壁やプレーヤーのだれかの身体か衣服に触れた場合。

注)ライン上に落ちたシャトルコックはすべてそのラインが境界を示すコート内に落ちたものと考える。

(e)シャトルコックがネットの打者サイドを越える前に打たれた場合。だだし、打者のラケットがシャトルを追ってネットを越えるのはよい。

(f)シャトルがインプレーの間にプレーヤーがラケットや身体でネットやサポートに触れた場合。

(g)1人のプレーヤーがシャトルコックを2回打った場合、あるいは1人のプレーヤーとそのパートナーが2人でシャトルコックを打った場合。

(h)プレーヤーが間違った順番で、あるいは間違ったコートからサーブし、フオルトがコールされた場合、あるいは次のサービスがリターンされる前に認められた場合。

 

プレー(THE PLAY)  

 

11・ファーストハンドをどちらのサイドが持つかが決まったらそのサイドの右側コートのプレーヤーが反対サイドの右側コ−トのプレーヤーにサーブすることによってゲームを開始する。反対サイドの右側コートのプレーヤーがシャトルコックがグラウンドに触れる前にリターンしたら”イン”サイドの1人がそれを打ち返さなければならない。さらに”アウト”サイドはそれを打ち返さなければならない。それはフオルトを犯すかシャトルコックがグラウンドに触れるまで繰り返される。”イン”サイドがフオルトを犯した場合はサーバーのハンドはアウトとなる。そして、反対サイドの右コートのプレーヤーがサ−バ−となる。しかし,サービスを受けなかったり,“アウトサイド”がフォルトを犯した場合は“イン”サイドが1点を得る。そして,“イン”サイドイドはコートを替えサーバーは左コ−トから反対のサイドの左コートにサーブする。また,自分のスコアに1点が加えられたときに限り,自分サイドのプレーヤーどうしがコートを交代する。各イニングのファーストサーブは右側コートから行う。サービスが取られた後はサービスラインを無視する。

 

一般ルール(GENERAL RULES)

 

12.サーブを受けることができる者は1人だけである0また、プレーヤーは2回連続してサーブを受けてはならない。

13.サーバーは相手が準備するまでサ−ブをしてはいけない。サービスリターンが試みられた場合,レシーバーは準備ができていたものと見なされる。サーブを打つときにサーバーが予備的に相手にフェイントをかけたりボークをした場合にはレシーバーにはサービスを受ける義務はない。

14.ゲームを開始するサイドの最初のイニングはワンハンドだけである。

15.サーバーは自分のコートのショートサービスラインとロングサービスラインの間のどこでも好きなところに立ってよい。

16.シャトルコックがサービスの際にネットかポストに触れた場合はレットである。しかし、インプレー中であればそのストロークは無効ではない。

17・どのような不測の事態についてもあるいは突発的な事故に対してもどちらかのプレーヤーから次のサービスの前に申し出があればアンパイヤーはレットとすることができる。その時にはプレーをやりなおす。

18・たとえそれが正しかろうが間違っていようがアンパイヤーの決定は最終のものである。

 

付録(APPENDIX)

 

両サイド1人ずつのゲームではルール11、12と異なる次のことを除いて上述のルールを適用できる。異なることとは,得点が入る毎に両方のプレーヤーがコートを替えるということと,同じプレーヤーが続けてサーブを受けるということである。

 バドミントンゲームは1つのサイドが3人づつあるいは4人づつでもプレーできる。この場合にはゲームは21得点で構成される。19オールでは先にその点に達したサイドがセティング5の選択権を持つ。20オールではセティング3である。

コートのバックバウンダリーラインをロングサービスラインとしてもよい。また,バックプレーヤーはサービスがフロントプレーヤーを越えた後ならばそれを受けてもよい。

ゲームを開始するサイドの最初のイニングはツーハンドのみである。その後はすべてのイニングでサイドの全員がハンドを持つ。また“イン”サイドの最初のプレーヤーはセカンドハンドがアウトになったらサードプレーヤーと場所を交替する。同様にセカンドプレーヤーはサードハンドがアウトになったらフォースプレーヤーと場所を交替する。

 

 

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