日焼け止めクリーム
 
 昔々、バドミントン日本代表チームの強化合宿が奈良県生駒市にあるサンヨースポーツセンターで行われた。私はこの合宿に、女子チームのコーチとして参加した。

 合宿何日目かは忘れたが、後半の頃であった。その日も、午前と午後の2回、T監督を中心に計画した練習メニューにしたがい、女子チームの面々は気合いを入れて練習を行った。しかしながら、その日の練習は、合宿後半ということもあって、疲れのためか多くの選手に集中力に欠ける場面が多々見られた。そこで、午後の練習も終わりとなる頃、T監督から檄が飛んだ。そして、グラウンド10週ランニング、という追加メニューが言い渡された。
 これで1日の練習も終わりと思っていた選手たちは思いっきりがっくりしたが、監督の命令とあっては従わざるを得ず、一度ゆるめた緊張の糸を再び張ることとなった。少しの休憩の後、「グラウンドに集合」というT監督の指示が飛んだ瞬間、選手が脱兎のごとく体育館の外へ駆け出した。私は、やはりナショナルチームのメンバーともなると行動が迅速で、見ていて気持ちがよいと思った。そして、私も夕食の時に飲むビールをおいしくするために選手と一緒に走ろうと思いグラウンドに出ていった。しかし、選手が誰もいない。おかしいなと思って、あたりを見渡すと、選手たちが1人2人と宿舎から駆け足で出てきた。そうなんです、選手たちは体育館に併設された宿舎へ、あることをするために、脱兎のごとく駆け出していったのです。
 選手たちがグラウンドに集まってきたので、その顔をよく見てみた。そしたら、顔におしろいがべたべたと塗られていた。売れない旅芸人のようにである。両方のほっぺた、おでこ、あごのあたりが「おしろい」で真っ白になっていた。
 と思ったら、それは「おしろい」ではなく、日焼け止めクリームであった。まあ、時間があればもっときれいに塗るのであろうが、あわてて塗ったらしく、売れない旅芸人のような顔になってしまったという次第である。

 これは、社会人選手の指導をしたことがない私にとって、全く予期しない出来事であった。しかし、君たち、君たちはスター選手なんですよ。日焼け止めクリームぐらい、時間がないからといっても、もっと上手に塗りなさいよ、と私はいいたかった。まあ、スター選手も、スター選手故に美白を気にしなくてはいけないのか・・・・。スター選手になるのも大変なのではある。
 しかし、もっと練習やトレーニングに全神経を集中させなさいよ、というところが私の本音で、本当は声を大にして言いたかった、が、相手が年頃の女性だったので言えなかった。おそらく女性の指導者であったならば言っていたであろう。

 と、こんなことを考えていると、本学の運動部員のことが頭をよぎった。本学には全国的に有名な、ホッケー部やソフトボール部、テニス部、ソフトテニス部があるが、部員は、例外なく、見事に日焼けをしている。春の頃はそれほどでもないが、6月ぐらいになるとだんだん黒くなってくる。そして、8月の夏休み頃にはピークをむかえ、見事なまでの小麦色となる。焼けるというよりは焦げるといった方が的確な表現であろう。そして冬に向かう頃にはだんだん白くなっていき、雪の降る頃には、雪のような白さになるわけでもないが、それなりに白くなり、また春を迎えるといった次第である。

 蘭ゼミの、ソフトボール部員、H山さん、N川さん、N倉さん、G田さん、K藤さん、スキンケアは大丈夫ですか?
 オゾン層の破壊のために紫外線対策が必要のようです。お肌を大切に練習がんばって下さいね。また、H山さんは卒論の方もがんばって下さいね。

 それでは皆さん、さよなら。


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