アキレス腱断裂
 

 昭和59年の本日というから、もう19年も前のことになる。この日に、私は、不注意にもアキレス腱を断裂してしまった。
 思い出したくもないが、今日は記念日である。
 だから、今日はおいしいお酒を頂いている。といっても今日に限ったことではないが。

 あの頃は、バドミントンの練習に飢えていた。シャトルコックを打ちたくてうずうずしていた。その時、私は、大学を出たてのバリバリであったが、バドミントンの練習をするところが、岐阜には、本当になかった。だから、いつも一人でトレーニングばかりしていたように思う。長距離走をしたり、ウエイトトレーニングをしたり、サーキットトレーニングをしたり、フットワークをしたり・・・・、俺は陸上競技の選手なのか?と、自問自答したりしていた。
 ところが、この季節は春休みということで、自由にあちこちを飛び回ることができた。大学バドミントン界でもこの季節は、シーズン前のもっとも練習できる時とばかりに、各大学が揃って強化合宿などをおこなう。そこで、私もそれに便乗とばかりに積極的に大学生に混じって練習をしていた。19年前のこの時期に、ホンダのシティーを運転し、東京に出かけ、都の西北に位置する我が母校、W大学の5泊6日の合宿に参加した。この時、当時、猛練習では有名であったW大の練習を完璧にこなした。そして、岐阜に戻り1泊の後、またまた、愛車のシティーを運転し、今度は関西の雄、K大学の6泊7日の合宿に参加した。これは、K大学バドミントン部監督のW氏との親交から受け入れてもらったものである。これもハードトレーニングでは全国的に有名な、K大学の練習を学生と同じ大部屋に寝泊まりし、完璧にこなしたつもりであったが・・・・。K大学の合宿最終日、忘れもしない、K大学記念会館。このゲームを最後に合宿を打ち上げ、岐阜に帰ろうとはじめたシングルスにおいて。相手は、現在、此花学院高校バドミントン部で監督をやっているT君であった。1ゲーム目を私がとり、2ゲーム目も13−6ぐらいで私がリードしているときであった。
 あと1点でマッチポイントを握るラリーで私の左奥にクリアーが飛んできた。そこで、ほぼ反射的にジャンプし、スマッシュを打った。そして、その後、左足で着地をした瞬間に、バーンという音と同時に左足に衝撃を感じた。私は、一瞬、これがアキレス腱断裂というものかと思った。そんなことを考えながら、床に倒れたところ、K大の1年生のSくんが私の所に一目散に走ってきてくれた。だれに行けといわれたわけではなく。私は、この人はなんと優しい人なのかと思った。そして、感謝した。が、私は油断をしていた。S君は私を腹這いにさせた。そして、おもむろに、私の左足首を持ち上げた。そこで、な、な、なんと、私のアキレス腱を伸ばしはじめたのである。私は、一瞬、お、お、おおおお・・・・、と叫んだ、が、もとよりSくんの怪力に抗す力は残されてはいなかった。そこで、思わず、私はうつ伏せの状態から身をよじり、S君に向かって、大声で叫んだ。アキレス腱はあるかー、と。Sくんは、一瞬、何のことか、判断が尽きかねた様子で力を振り絞ってアキレス腱を伸ばし続けたが、ふと我に返った。そして、私のアキレス腱を触ってくれた。そして、答えてくれた。途中でアキレス腱がなくなっています、と。S君は私の足がつったものとばかり思い、伸ばそうとしてくれたのである。なんと優しいS君であることか。もちろん、これまた優しい私がS君を怒ったなどということは決してありません。今でもその優しさには感謝をしています。
 その夜、岐阜県協会のO氏とT氏が、岐阜県バドミントン界では超有名人であるB氏から借りた高級車を運転し、東大阪市のK大学まで迎えに来てくれた。そして、私はO氏が運転する高級車に乗り、そして、T氏が私の愛車を運転し、無事岐阜に帰ることができた。

 その節は色々とお世話になりました。この場をお借りいたしまして、関係各位には深くお礼を申し上げます。

 そのとき、私の愛車シティーはマニュアル車であった。左足が不自由の身ではクラッチが踏みにくいということで、オートマチック車に買い換えた。ホンダのインテグラにである。独身時代にはこうも簡単に車を乗り換えることができたのである。いまでは、とうてい無理である。

 アキレス腱を切る前兆、今から考えるとこれは確かにあった。しかし、切った経験がなかったので見逃してしまった。
 大学生シャトラーの皆さん、アキレス腱は大事にしましょう。切れる前には、その前兆があります。しかし、それを恐れていてはハードトレーニングはできませんが・・・。難しいところです。これは、切った人にしかわかりません。もったいぶって、ごめん。ま、これをスポーツ科学で説明しようとしても、所詮無理です。スポーツ科学なんてものは、こんなものだと思います。

 お、これが今日の大きな教訓か。


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